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夏至の夜のクラシック

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空色の天上にシャンデリアの大きな雲、
そこから金の天使が降りてこようとしています。
ここは、街の小さな小さな劇場。

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夏至の夜は、毎年フランス全土で音楽祭が行われます。
都会も田舎も、野外や屋内の会場でも道端でも
様々なジャンルの大小いろいろなコンサートが行われます。

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今年のワタクシは、ロックでもジャスでもポップでもなくクラシック!
小さな舞台にはピアノ、
そして、その脇に譜面台と椅子が一脚だけ置かれています。

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この大きなポスターは去年から貼られていましたが
このポスターの写真の白髪のムッシューが誰であるかに気が付いたのは
今年の2月の初めでした。
この偉大なピアニストがここで演奏する?!
びっくりしました。

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この劇場は、120人しか入れないほんとに小さな劇場です。
緞帳が降りることもなく、席はシートではなく椅子。
クラシックのコンサートですが、お客さんはかなりラフな格好で来ていました。
私がこの劇場に入るのは、初めてのことです。

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開演時間になって現れたのは、ガウンを羽織ったおじさん・・・
この方が劇場の支配人。役者かなと思いましたがピアニストだそうです。
何を話すのかと思ったら
今日の曲目の紹介。事前に曲目の発表はなく、パンフレットもありません。

「第一部とか第二部とかもありませんからね。どこで曲が終わるか
演奏者が立ちあがったらそこで曲が終わりですから、拍手してくださいね。
特に、これからお二人が登場する際には、特別に大きな拍手をお願いしますよー
今日のコンサートは、かなりかなり特別です。
ある時、クラリネット奏者の息子さんと出会って親しくなり
我が劇場でコンサートをしてもらえるかどうか聞いてみたら承諾してくれて
無理だろうと思いながらも、できたらお父上とコンサートをしてもらえないかなと
お願いしてみたところ
パパを連れてきますと快くOKしてくれたのです。」

そうです、非常に特別なことはわかっていました。
ここで彼のピアノが聞けるだなんて、奇跡だ!と思ったぐらいです。

偉大なピアニストであり指揮者であるパパはウラジミール、80歳。
ジュニアはディミトリ、50歳ちょっと手前かな。
そうです!クラシックに興味のある方はご存知ですよね。
アシュケナージ父子です。

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二人が登場して、演奏が始まりました。
ガウンの支配人は姿を消すのかと思ったら、そのまま楽譜捲り担当として
パパの横にガウン姿のまま!座りました。

ウラジミール・アシュケナージのコンサートは
ピアノにしろオーケストラにしろ
通常は、世界の大都市の大きな会場で行われるのに
フランスの地方の町のこんな小さな劇場でピアノを弾いてくれるなんて…
演奏が始まっても、現実とは信じられないような気持ちで聞いていました。

まずはシューマンの曲が演奏されました。

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次の曲が始まる前に、二人とも上着を脱ぎました。
今どき、こんな会場は滅多にないと思うのですが
空調が効いていません・・・暑いのです!
支配人の話の中でも
「ちょっと暑いですが、今日は夏至ですし、ぴったりですね。
ペットボトルの水も皆さんに用意してありますから…」と言っていました。

狭い会場で満席。演奏を聞いている間にのぼせそうになったり
汗がじわーっと出てきました。
「今どき、学校の体育館でもこんなことはないんじゃないかな・・・」
と一瞬思ったのでした。

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シューマンの後は
ベルク、ルトスワフスキ、サン・サースと続きます。

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演奏中、何を見ていたかといったら
それはもう、トレードマークのような白いタートルを着たウラジミールの手です。
以前、ピアノの音について書いたことがありましたが →
ウラジミールの手の中には、ちょうど小鳥が一羽いるようでした。
そして、曲が終わり、鍵盤から手が離れるときは
その小鳥が静かにゆっくりと飛び立っていくようでした。

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もともと小柄なムッシューですが、高齢ということもあって
また少し小さくなったようにも見えました。
小柄なわりにはしっかりした指は、そのままで
その澄んだ力強い音に聞き入りました。

彼の手を見る以外は
これが野外でのコンサートだったらもっと気持ちよいだろうと想像して
いつもの公園の石の半円形劇場で演奏会が行われている風景を思い描きながら
少しの間、目を瞑って音に酔っていました。

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最後は、プーランクのクラリネット・ソナタ。
とてもよかったです。特にROMANZAが心に響きました。

演奏後は、もちろん、大きな拍手がいつまでも続きました。
アンコールは、ジェルベの子守唄でした。

密かに、アンコールでショパンのエチュードのほんの一部でも弾いてくれないかな…
と期待していたのですが、それは無理な話でした。

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私が友人と座った席は、バルコニーの最前列でした。
席に番号が付いていて前もって席が割り当てられていたのではなく
入場したときに、「じゃあ、あなた方は2階のバルコンの最前列にどうぞ。
行けば席が空いているのがわかるはずよ」と
その場で振り当てられたのです。

入場の際は
切符もないので、支払いとともに連絡してある名前を伝えると
リストの名前をペンで棒線を引いて消すという
非常に原始的な方法でのチェックです。

全てがこんな風にのんびりな感じですが、最高の演奏会でした。
最高の椅子席、またいつか・・・

そして、まだ続きがあります。
演奏会の後には、カクテルタイムがありました。

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劇場の横の庭で、シャンパンが振る舞われ
オードブルやスイーツも用意されていました。

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夏至とはいえ、だんだん暗くなってくる中
月明かりと小さなライトの下でウラジミールとディミトリがサインをしてくれます。
ディミトリは、スイス育ちとのことでフランス語も堪能で
気さくに話してくれました。
私が日本人だと言ったら「僕はフランス語は話せるけど、日本語は話せないよ」
と笑っていました。

コンサートについては、パパアシュケナージのことばかり書きましたが
ディミトリのクラリネットを聞いて
クラリネットのまろやかな音の心地よさというのも久しぶりに思い出しました。

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今回の演奏会の曲目は
日本ですでにCDで発売されています。
ご興味のある方は、どうぞ。『クラリティ』→ ♪♪

私もサインをしてもらって
そして、二人と握手をしました。

一昨年ぐらいからショパンの曲のことを時々ブログにも書いていて
特にアシュケナージのピアノが気に入って聞いていたのです。→ ♪♪♪
どのピアニストの演奏が気に入るかは、
たぶん波長が合うとか、呼吸が合うとか、
そういうところなんじゃないかなと思うことがよくあります。
そんなふうに思っていたアシュケナジーが、我が町の
この小さな劇場にピアノを弾きに来てくれて
その音を堪能できて、握手までしてもらえた・・・
これは、私にとって、ほぼ奇跡に近いことでした。

流れ星が落ちてきたような
まさに真夏の夜の夢のような時間でありました。

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風が吹いて菩提樹の花薫る夏至の宵

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通りではまだコンサートが続き、賑わいが聞こえてきます。

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23時を過ぎていましたが、空の奥の方には
まだ明るさが残っていました。

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「あたしは、一人、ソファーでいびきのコンサートを開催していました。


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だって、昼間はマレで頑張ったんだもの!」
U^I^U*

サッカーのワールドカップでは、フランスが2勝目もあげたし
21日は、とてもいい夏至の日でした。 ^^




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Commented by fran9923 at 2018-06-24 09:41
まあ!!!
素晴らしい一夜を過ごされたのですね。
アシュケナージ親子の演奏を生で、ほんのすぐそばで聴けたなんて!!一生の宝物になりましたね。
音楽は見るもの、絵は聴くもの、というのは本当だと思います。
言葉にはうまく言い表せませんが、素晴らしい音楽(芸術)には人の魂を揺り動かし、解放させる力を持っているのですよね。
良かったですね〜〜〜。
きっとかっちゃんにも聞こえたと思いますよ。
Commented by aomeumi at 2018-06-24 10:04
青目
素敵ですねぇ・・・音は聞こえないけれど、食い入るように読みました。ヨーロッパにはこうしたコンサートがよくありますね。もっとも恋しい催しです。ピアニストの手が小鳥に例えられ、最後に飛び立っていく・・・素敵な表現です。
そして、まだこのような劇場が残っている。20年ほど前には、ポルトガルの漁師町にそっくりな劇場が残っていました。町のお金持ちの個人の持ち物だったようです。没落して、役所の持ち物になり、コンサートは開かれなくなりました。
Commented by snoo at 2018-06-24 10:43 x
なんて素敵な宵を楽しまれたのでしょう♪
こじんまりとしたところがいいですね♪
カクテルタイム、サイン会まであって思い出に残るコンサートでしたね。
そして息子さんが若いころのパパにそっくり。

個性的なガウン姿のムッシュは一瞬どてらを着てるのかと思いましたが。
この劇場はどんな歴史があるのかしら、興味深いですね。

お留守番のお嬢さまはひとりコンサートを楽しんでたみたいですね(笑)

Commented by yoshi at 2018-06-24 15:33 x
素晴らしい音楽会だった様子が想像できます、
息子さんとの出会いがなかったらこのコンサートも開かれなかったでしょうね。
二階は熱気で暑かったのでしょうね。
小さな劇場はその昔富裕な人が建てたのでしょうかね。
Commented by echalotelles at 2018-06-24 19:04
# フランさん、こんにちは♪

すばらしかったですよーー(*‘∀‘)
私は徒歩で行けるこの劇場に、遠くからアシュケナージ親子がわざわざいらしてくださった・・・そんな感じで、びっくりしました。
ピアノの生演奏を聞きたいなとは思っていましたが、まさかアシュケナージのピアノを生で聞けるなんて!
帰りは、シャンパンに酔って、ふわふわしながら歩いていました♪
「音楽は見るもの、絵は聴くもの」、いい言葉ですね。ほんとにその通りですね。
今の世の中は、ビジネスが中心になってしまっていますが
音楽や文学、その他の芸術のほんとの力がもっと発揮されると、いい方向に行くんじゃないかなと最近、よく思います。
かっちゃんは、今、毎日アシュケナージ親子のCDを聞かされています。
それに合わせてソファーで踊っています。笑
Commented by echalotelles at 2018-06-24 19:54
# 青目さん、こんにちは♪

いいコンサートでしたよ。(*‘∀‘)
そうですね、こちらでは素晴らしいコンサートをわりと気軽に聞けることがありますね。
ピアノを弾くときに手を置くときは、小鳥をそっと包むように手を丸めると表現したのは、南フランスの大学の文学の女性の教授でした。
その小鳥のように文学も大事に扱わなくちゃいけないという話だったのです。
この劇場もプライベートの建物だそうです。
20年、ポルトガルの漁師町も変わっていきますね。
この劇場、今後も残っていってほしいです♪
Commented by echalotelles at 2018-06-24 20:05
# snooさん、こんにちは♪

夢のような素敵な宵でした。(*‘∀‘)
こじんまりしてて、ホームパーティーのような感じでしたよ。
最後に二人で舞台に向かって、お辞儀をしながら挨拶をしていましたが
見ている私も思わずお辞儀をしてしまいました。笑
確か、snooさんが昔、どなたかのコンサートでスミレの花束を持って行って渡したというお話がありましたよね。そのことを思い出して、私もマレのバラを一輪持って行こうかしらと思ったのですよ。結局持って行かなかったのですが、持って行っていたら暑さでバラが萎れてしまっていたことでしょう。(*´▽`*)
そうですか、ディミトリはパパの若い頃にそっくりですか。
長男のヴォフカはピアニストだそうですね。3人揃ったコンサートも見てみたい!

この支配人、そうです、ガウンというよりどてらといった方がぴったりの感じでしたw
この支配人がいてくれたから、この劇場でこのコンサートが開催されたわkなので、感謝しなくちゃいけませんね。
この劇場はプライベートのものだそうですが、そんなに古い歴史があるわけではなさそうです。また調べてみますね。
お嬢様、この夜からずーっとアシュケナージ親子のCDを聞かされています。
それに合わせて踊っていますよ~♪
Commented by echalotelles at 2018-06-24 20:09
#  yoshiさん、こんにちは♪

素晴らしいコンサートでした。(*‘∀‘)
支配人とディミトリの出会いがあって、アシュケナージ親子がそんなに遠くない隣りの国のスイスに住んでいるということもあって、来てくれたのだとは思いますが、まあ、よくここまでわざわざ来てくれたなと思います。
2階だけじゃなくて、どこもかしこも暑かったようです。
外に出たら涼しかったですよ。
この劇場はプライベートなものですが、古そうに見えてごく最近作られたもののようです。また調べてみますね。
Commented by mulde at 2018-06-25 08:25
素敵なコンサートでよかったですね!
アシュケナージのシューマンいかがでしたか?
老境の彼、とんでもない、シューマンが弾けていたのではないでしょうか。ましてや息子さんと。
Commented by echalotelles at 2018-06-25 18:08
# muldeさん、こんにちは♪

よかったですよ~。期待以上のコンサートでした。(*‘∀‘)
こんなに小さいな劇場でのコンサートだったので
どこか学園祭のようなほのぼのとした雰囲気も漂っていました。
どうでしょう・・・
私はそれほどクラシックを聞いているわけではないし、アシュケナージのピアノも
数年前から聞くようになったので、このシューマンがどんな具合にとんでもなかったのか…も、よくわからないのですが、素晴らしかった!の一言に尽きるでしょうか。
そうなんです、私もこのコンサート、アシュケナージということ以外に
80歳のピアニストの音、息子さんとの共演ということにすごく魅力を感じて是非とも見たいと思ったのでした。
親子だけに呼吸があっているというか、まさにブレスをするのが一緒なんですね。
そして、温かいムードが醸し出されて、素晴らしかったのです。
↑の記事で紹介した『クラリティ』のCDの録音時から11年経っているのですが、
1曲目のシューマンの出だしは、ちょっと覚束ないようにも思えました。でも、あとは全く年齢を感じさせない、むしろ若さを感じるような音でしたよ♪
Commented by snowdrop-momo at 2018-06-27 06:52
素晴らしい夏の夜の夢!♪
手のなかの小鳥を守るように弾く…おたがい同じ世代のピアノ教育を受けてきたんですね。
シャンデリアの雲の上で、まぼろしの小鳥がカストラートで歌っていたのではないかしら。
アシュケナージ・ジュニアのクラリネットのなかに紛れ込みながら…

https://www.youtube.com/watch?v=VQXjysIGROs (映画「カストラート」)

息子さんがクラリネット奏者だということを初めて知りました。
父子のアンサンブル、どんなにハートフルでしょう!

マレの美しい自然にとけこむようなアシュケナージのピアノを
生で聴けて本当に良かったですね♪

夏の宵 巨匠と語りし帰り道 君は雲ふむ心地なるらむ
Commented by echalotelles at 2018-06-28 01:04
# snowdropさん、こんにちは♪

とてもいい夜でした。(*‘∀‘)
「手のなかの小鳥を守るように」、これは南仏の大学の文学の教授の表現です。
私は、たしか卵を持っているような感じでと教わったように覚えています。
ディミトリは次男で、長男のヴォフカはピアニストだそうですよ。
3人が揃っての演奏も聞いてみたいです。
生のコンサートはいいですね。
全てがprivilégiéな時間でした。
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by echalotelles | 2018-06-23 22:05 | 日常の特別 | Comments(12)

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