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続・ピアノの音

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ピアノの音」について書いてから、もう1年が経ってしまった。

街のジョルジュ・サンド広場の上に、またグレーの空が広がる季節になった。

フランスの女性作家であるジョルジュ・サンド(1804‐1876)の館は、我が町から南へ車で1時間半ほど下ったところにあるノアンという村にある。彼女には多くのパートナ―が存在したが、そのうちの一人が我が町の弁護士であったということで、ここに像がたっているのかもしれない。いちばん有名なパートナーであるピアニスト・作曲家のショパンもノアンの村でサンドと過ごした時期があり、そこで作曲もしている。そんなことを考えながら、アシュケナジーの演奏するショパンの「エチュード」を聴いていたら、まるでマレで聞こえてくる小鳥の鳴き声や風の音かと思うような旋律がいくつもあって、なんと耳に心地よいのだろうと思うようになった。調べてみると「エチュード」はショパンがサンドと出会う前に作曲されているので、ノアンの地で作られたものではないけれど、我が町の近くの同じベリー地方のノアンに滞在しながら作られた曲には、きっとショパンが過ごした時代の小鳥の声や風の音の影響もあるに違いないと確信するかのように思えてきた。そうしたら、俄然ショパンが身近な存在になってきた。私が子どもの頃にピアノを習って弾けるようになったのはソナタぐらいまでで、ショパンの曲を練習してもすらすらと弾けるわけはないけれど、つっかえながらでも弾けたら楽しいだろうなと考えた出したら、もう止まらない。

今の時代、ネットから楽譜をプリントアウトできるのだ。

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ピアノを習っていた頃、練習するのは好きではなかったけれど練習曲そのものは好きだった。指の練習のためのハノンでも、いい曲だなと思うこともよくあった。ショパンの曲の中でも「エチュード」に心惹かれて、これが弾けたらなんと素晴らしいのだろうと、もう弾けるような気になって感動さえ覚えるのであった。

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ピアノの音のよさについては、南仏に住んでいるときにドゥドゥにも話したことがあった。ピアノが弾きたいなというようことも言ったと思う。その会話の翌日だったか、彼が何か大きなものを抱えて帰ってきた。とても自慢気で嬉しそうな顔をして、その大きなものを組み立て始めた。キーボードであった。中古屋さんで見つけたのか、ロックな仲間の誰かから譲り受けたのか、どこでどうして見つけてきたのは聞かなかったけれど、そう考えている間にも「これは、いろんな音が出るんだよ」と説明してくれた。あまりにも楽しそうに嬉しそうに話すので、「私が好きなのは本物のピアノの音なんだけどな」と言うことができなかった。ピアノの鍵盤に指が触れるあの感触や鍵盤を押す時の力の入れ方はキーボードとは全く違う。もちろんピアノに似た音は出てもピアノの音は出ない。私が喜ぶだろうとプレゼントしてくれたのに、ありがとうとは言ったものの、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

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しかし、そのキーボードでショパンが弾けるかもしれないと引っ張り出してきたのだ。昨年の12月のことだった。いつか本物のピアノで弾く日まで、このキーボードで練習すればいいのだ。高さを調節し楽譜を置いて、まずは片手ずつ弾いてみよう。こんなに真面目に楽譜に向き合うのは何十年ぶりだろう。右手でゆっくりと鍵盤を移動していく。

ところが、
真面目に演奏するはずが大笑いをしてしまった。
鍵盤が足りないのである!

パッと見ればピアノとキーボードの鍵盤の数が違うことはすぐわかるはずであろうに、弾く楽しみばかりを考えていて気がつかなかったのだ。思わず自分のおっちょこちょいさと「ドゥドゥにしてやられたな」という思いで大笑いしてしまった。その日以降、「エチュード」の練習は途絶えている。しかし、その日以来、「エチュード」をよく聴くようになった。目の前がさっと開けるような音の連なりは、
私にはどうしてもマレで聞こえてくる自然の音と重なる。

フランス文学の先生であったP女史が「ピアノを習うときに手の置き方について、一羽の小鳥が手の中にいるようにそっと手を丸めて置くようにと習うでしょ?文学もね、その小鳥のように大事に扱わなくちゃいけないのよ。」と話していた、その小鳥がピアノの音の中で舞うのである。

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ドゥドゥの弟のオリビエが奥さんと一緒に我が町にやってきたのは、昨年の今頃である。現在、彼らは奥さんの両親がかつて住んでいたアビニョンに近い村に住んでいる。彼の義父、つまり奥さんの父親であるジャックローの燭台の付いているピアノのことを聞こうと思っていたのだが、話しているうちに、あのピアノが置かれていたジャックローの家は、もはや外壁しか残っておらずオリビエたちは近くに建てた家に住んでいることがわかった。ジャックロー自身があちこち手を入れて修繕していた大きな家は、更に手を入れたり建て替えるには無理があったようだ。そのことを知って、ピアノのことを話題にするのは止めてしまった。

あのジャックローの家の地下の広間に、
あのピアノをそのままにしておきたいと思ったからだ。

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今日は風の強い日。
ショパンのエチュードの「Winter Wind」と名の付いた第23番のような風が吹いている。


*「ピアノの音」のお話は、またそのうち"続く"はずです♪



Commented by PochiPochi-2-s at 2017-12-12 12:54
すてきなお話にしばし余韻に浸ってましたよ。
私もピアノの音色がいちばん好きかなと思っています。
今絵を描くときはどういうわけかフジ子・ヘミングの弾くピアノ曲
をかけていますね。なんだか落ち着くのです。

「ピアノの音」続編、楽しみにしています♪
Commented by echalotelles at 2017-12-12 20:09
# Pochipochiさん、こんにちは♪

広間といっても、石の壁に囲われたがらんとしたところなのですが
そこに響くピアノの音の余韻を感じるように読んでもらえたら、とても嬉しく思います。(*‘∀‘)
チェロやサクソフォンや楽器の音はそれぞれ好きなのですが、ピアノの音はどこか特別ですね。
Pochipochiさんは、フジ子・ヘミングさんの演奏がお好きでよく聴いてらっしゃいますね。彼女はパリでよくコンサートをなさっているようです。
生のピアノの音を傍で聴きたいなと思うこの12月です。
さて、続編はいつになることやら・・・でも、お楽しみに♪
Commented by snowdrop-uta at 2017-12-13 15:51
こんにちは。
昨年からひそかに心待ちにしていたピアノのエセー、
うれしく拝読しました♪

ショパンのエチュードop10-1、ダイナミックですね!
snowdropはop25-1(エオリアンハープ)をよく弾いていました。
「木枯らし」は挫折しました!
来年はまたピアノに戻れるといいな♪お陰様でわくわくしてきました。

ピアノの鍵盤はベートーヴェンの頃からどんどん広がっていったから
モーツァルトやバッハがキーボード向きかもしれませんね。
ショパンみたいにピアノに特化した音楽ではなくて
チェンバロでもピアノでもいいよ~というゆるい作りですし。
家の改装でピアノを預けていた時期は、キーボードをオルガンやチェンバロ風の音にして楽しむことに…♪

「燭台つきのピアノ」も楽しみにしています。
追伸*りんごのお菓子、焼きました!
おかげさまで室温で粗熱をとってから無事にお皿に移せました。
ひっくり返そうか迷って迷って、思わずechaloteさんにお電話したくなってしまいました。可笑しいですね。^^
Commented by echalotelles at 2017-12-13 21:02
# snowdrop-utaさん、こんにちは♪

ありがとうございます。(*‘∀‘)
1年もお待たせしてしまいました~

エチュードop10-1は、私にはちょうどいいテンションの具合と言いましょうか
いい感じに心に沁みこんできます。
op25-1は、煌めく小川の流れのような滑らかで清らかな曲ですね。
私が弾いたら、きっとぎくしゃくしてしまいます…ヽ(^。^)ノ

モーツアルトやバッハ…恐れ多くて~
なんて、安川加寿子さんのピアノ小曲集に収められているような曲はぽろぽろと弾きます。
家にピアノがあるというのは、いいものですね。
snowdropさんの来年は、きっといい年になりますね♪

燭台付きのピアノは、今はどこに置いてあるのでしょうね…
私のピアノは、オルガンの先生をしていた友人が譲り受けてくれました。彼女と出会った時はもう先生を止めてた時なのですが。「ピアノの音」の続編は、そんなお話になるかな。お楽しみに!

ガトー・アンヴィジブル、浮かくできてよかったですね。
日本のレシピではパウンド型で焼くものしか見かけなかったと思いますが
こちらでは、丸いマンケ型や耐熱の四角い型で焼くというレシピも見かけます。
綺麗な耐熱の器があれば、それで焼いて冷まして、そのままテーブルに乗せて切り分けるのもいいかもしれませんね。なにしろ、アンヴィジ―ブルですからね。見えないものが切り分けたときに見える!楽しみも味わえたら…楽しい!!(*‘∀‘)
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by echalotelles | 2017-12-11 06:22 | 書いておきたいこと・思い出 | Comments(4)

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